火伏せ

火渡りで、不信の者は火傷をするという言い伝えがある。
先達の法印はまだ炎が上がっている中を歩くと、護摩壇を囲む見物人から拍手が出る。その後に消防の人が続く。一般の信者はその後だ。
夜9時、黒い法被を着た世話役が小さな提灯を持ち法印を先導する。修験者が法螺貝を鳴らしながら後ろを歩く、まといを持った消防が続く。
長い石段を登りきりると、体を右に向け海の方向につま先を揃える。石段は北の方角に延びているので、真東を見る形になる。向きを変えたら、一歩進む。向きを左に変え、本堂を正面に向き、そのまま進んで中に入る。
しばらくすると本堂の中から炎が上がるのが見える。この火を持って下り、護摩木につける。
白い煙があたりに広がる。煙で人の姿が見えなくなったころ、パチパチと音をたてて炎が上がる。煙が消え、炎は天に昇るように激しく揺れたかと思うと、すぐに勢いを失う。二人の行者が長い棒を左右に振り、燃えさかる護摩木を均すと火の粉が一斉に舞い上がった。
火渡りの順番を待つ長い行列の後についた。中学生や高校生もいる。初めて、火渡りをする彼女に、渡り方を詳しく説明している彼氏がいた。炎を見た後の興奮なのか、衆人のなかにいることを忘れて、二人だけの会話に夢中になっている。
別の場所でなら、無礼な二人と思ったかもしれないが、穏やかな気持ちで見守れたのは、秋葉山の功徳かもしれない。
秋葉山は明治5年の神仏分離で真言宗醍醐派に属することになった。そのことが理由かどうか判らないが、真言宗醍醐派の公式ホームページに駿州秋葉山は登場しない。